前半では、言語の定義から「音のパターン」までを読んだ。後半はかたち——語はどう組み立てられ、そこにどんな種類の意味がひそみ、そして言語を序列に並べる試みがなぜ失敗するのか。第4〜6章。

1. 「方法」と「意味」は別もの

機能(意味) 方法(かたち) 過去 複数 接尾辞(work-ed, book-s) 母音交替(sing/sang, goose/geese) 同じ機能が複数の方法に散らばり、同じ方法が複数の機能を担う。
英語では「過去」も「複数」も、接尾辞と母音交替の両方で表される。方法と機能は一対一ではない。図:L/LAB

第4章。英語の複数-s(books)でも母音交替(geese)でも表せる。母音交替は複数にも過去(sing→sang)にも使われる。過去は接尾辞(work-ed)でも母音交替でも表せる。ヘブライ語では、動詞の意味は三つの子音(sh-m-r =「守る」)で担われ、あいだに入る母音が形を変える。

サピアの結論はいつも同じだ——「パターンは一つのこと、パターンの活用はまったく別のこと」。「どんな機能をどんな方法で表すか」は言語ごとにかなり恣意的で、そこに論理的な必然はない。

2. 語を組み立てる六つの方法

① 語順 the dog bites / bites the dog ② 複合 fire + engine → fire-engine ③ 接辞 un- / -ing / -ed(前・後・中) ④ 内部変化 sing → sang, foot → feet ⑤ 重複 (語幹の反復。多くの言語で複数など) ⑥ アクセント récord(名)/ recórd(動) どの言語も①〜⑥のいくつかを使う。分布は広いもの(接辞)から まれなもの(機能的なアクセント・子音交替)まで。
第4章の骨子。語順・複合・接辞・内部変化・重複・アクセント——文法的な意味を担う方法の一覧。図:L/LAB

方法そのものは、それほど多くない。語順、複合、接辞(前置・後置・語中への挿入)、内部変化(母音・子音・アクセント・短縮)、重複(語幹の全部または一部の繰り返し)、そしてアクセント。どの言語も、このいくつかを組み合わせて語を作る。

3. 「農夫がアヒルの子を殺す」——意味の四つの層

the farmer kills the duckling 材料的内容 Ⅰ 基本概念 farm, kill, duck Ⅱ 派生概念 -er(〜する者), -ling(小さい) 関係 Ⅲ 具体的関係 数(-s) Ⅳ 純粋関係 the(指示), 語順(主語/目的語) the を消すと文が壊れ、 -s を消すと命令になり、 語順を変えると疑問文や 主客の逆転になる。 Ⅰ と Ⅳ はどの言語にも必須 Ⅱ と Ⅲ はあってもなくてもよい
第5章の中心。一文の意味を、材料(基本・派生)と関係(具体的関係・純粋関係)の四層に分ける。図:L/LAB

サピアは「the farmer kills the duckling」を徹底的に解剖する。the を消すと文が成り立たず、-s を消すと命令(呼びかけ)になり、farmerduckling を入れ替えると主語と目的語が逆になる——関係を担うのは語順と小さな語だと分かる。

そこから概念を四つに分類する:

どの言語も Ⅰ と Ⅳ を必ず持つ。Ⅱ と Ⅲ は任意で、言語によって大きく変わる。英語が数や時制を(名詞と動詞に二度)標示するのは、それを「関係」として扱っているからであって、そうする必然があるからではない。

4. 品詞は、現実の分析ではない

性質「赤い」 it is red形容詞 it reddens動詞 the-table its-redness名詞(例:チヌーク語) 「it reddens」が動詞なら、「red」を動詞にする言語があってもおかしくない。
同じ性質を、言語は形容詞にも動詞にも名詞にもできる。品詞は現実の像ではなく、現実を形にする方法。図:L/LAB

第5章の終盤。「it reddens(赤らむ)」が動詞なら、「red」を動詞にする言語があってもいい。実際、形容詞を持たず「赤くある」という動詞の分詞で表す言語や、「テーブルの赤さ」と名詞化する言語がある。「the height of a building」では、英語話者も性質を物のように扱っている。

The “part of speech” reflects not so much our intuitive analysis of reality as our ability to compose that reality into a variety of formal patterns.

「品詞」が反映しているのは、現実についての我々の直観的分析というより、現実をさまざまな形式パターンに構成する我々の能力である。(第5章)

ほぼどの言語にもあるのは名詞と動詞の区別だけ——「発話とは命題の連なり」だから、「何かについて」語る名詞と、「何かを述べる」動詞は要る。「品詞の論理的スキームは、言語学者にとって何の関心もない」。

5. 言語に、優劣の梯子はない

✗ 一本の梯子(進化論的分類) 孤立語 膠着語 屈折語(=頂点?) ○ 複数の独立した軸 ・どんな概念を表すか(Ⅰ〜Ⅳ のうち何を) ・技法(孤立/膠着/融合/内部変化) ・総合の度合い(分析的/総合的/多総合的)
第6章。「孤立語→屈折語」という一本の序列を捨て、独立した複数の軸で言語を記述する。図:L/LAB

第6章で、サピアは旧来の「孤立語 → 膠着語 → 屈折語(+抱合語)」という分類を退ける。それは進化論的な偏見と、ラテン語・ギリシャ語を最高到達点とみなす自民族中心の思い込みから来ている。

A linguist that insists on talking about the Latin type of morphology as though it were necessarily the high-water mark of linguistic development is like the zoologist that sees in the organic world a huge conspiracy to evolve the race-horse or the Jersey cow.

ラテン語型の形態を、言語発達の必然的な最高水位のように語り続ける言語学者は、有機界を、競走馬やジャージー牛を進化させるための巨大な陰謀と見なす動物学者と同じである。(第6章)

言語は「人間の直観の象徴的表現」であって、それを扱う人々の文明の進み具合とは無関係に「百通りにも形をとりうる」。だから——「すべての言語は形式言語である」。分類するなら、どんな概念を表すか/どんな技法か(孤立・膠着・融合・内部変化)/総合の度合いは(分析的・総合的・多総合的)、という独立した複数の軸で捉えるしかない。

まとめ

サピアの主張(第4〜6章)ひとことで
方法と機能は一対一でない「パターンは一つ、その活用は別」
語を組み立てる方法は6種ほど語順・複合・接辞・内部変化・重複・アクセント
一文の意味は四層(基本・派生・具体的関係・純粋関係)必須は Ⅰ と Ⅳ だけ
品詞は現実の像ではなく、形にする方法普遍なのは名詞/動詞の別だけ
言語に序列の梯子はない「競走馬やジャージー牛への陰謀」ではない/独立した複数の軸で

そしてサピアは第2章でこうも言っていた——「すべての文法は水漏れする」。完全に規則的な言語はない。


次は、この本で最も影響力の大きい考え——ドリフト(第7〜8章)。全体像は「サピア『言語』を読む」へ。